アクロス・ストーリー 
 「22万4673kmのアクロス」 

『OutRider Vol.18』では、ホーネット登場! その理由は……。

実はアクロスにアクシデントが発生。

復活までの話を聞いてくだされ。


  どうしたアクロス!  


黄砂に煙る太陽(奈良盆地)

 それは06年4月8日。黄砂が降り、空が黄色く覆われた日のことだった。万葉時代の人々が見たら、何かの予兆と思ったかもしれない。

「今日の天気はヘンだなあ、アクロス」
「青空バックの桜が撮れなくて残念だね、哲さん」

 いつもの会話をしながら、奈良の桜を追いかけてたおいらは、日暮れと共に、家へと向かっていた。

 家まで残り500m。最後の交差点に差し掛かった時のことだった。ギヤをシフトダウンし、クラッチを繋ぎ、アクセルを開けると「ブワワワン!」と大きなエンジン音。ありゃりゃ、ギヤを入れ損ねたか。

 もう一度ギヤを入れる。入った。アクセルを開ける。「ブワワワワワン!」

 何度やっても同じ。エンジンは回転しているのに、チェーンが全く動かない。

「アクロス、どうした? アクロス!」
 アクロスは答えない。

 幸いなことに、交差点から1キロも行けば、いつものバイク屋さんだ。しかし、閉店時間を30分過ぎている。もしかしたら、まだ店の人が残っているかも……と、アクロスを押して走る走る。坂道が現れた。息を切らせながら登る登る。

 ようやく下りに入り、一気に走る速度が上がる。店が近付いてきた。電気が点いてる! よし、まだ開いてるぞ。もうちょっとだ、急げ急げ。

 息を切らせながら到着。店の人がなんやなんやと出てきてくれる。今日はお店が忙しくて、閉店が遅くなったそうな。運が良かった〜。

 とりあえずアクロスを見てもらったが、やはり開けてみないと原因は判らないという話だったので、アクロスを預けて帰る。 


 次の日の夕方、アクロスの様子を見に行く。

 店長さんがいきなり「こんな症状は初めてです」と言う。見れば、フロントスプロケットとスプロケットシャフトの歯車の山が、ほどんどツルツル状態!

 これでは、いつ走れなくなってもおかしくない。10日前には高知を走っていたのに! よく途中で止まらなかったものだ。

 横波ラインの稜線上や、奥物部の山の中。もし、携帯の電波すら届かない所で止まっていたら……。

 アクロスはおいらに迷惑かけないように、頑張っててくれたんやなあ。
 頑張って頑張って、アクロスは家とバイク屋さんに一番近い交差点で止まってくれたのだ。

 絶対にアクロスには意識があると思った。アクロスはいつ止まってもおかしくない状態で、おいらに一番迷惑をかけない所まで走ってきてくれたのだ。なんて良いバイクなんや……。

 アクロスは2週間の預かりとなった。

チェーンが取り付けられているフロントスプロケット。内側の山がほぼツルツル状態。外の歯もかなりやせている。


中央の丸いシャフトに、上のスプロケットが取り付けられていた。


 アップで見るスプロケットとシャフト。

 どちらも山がツルツル。左のシャフトに、上のスプロケットをはめ込むのだが、歯車の山がほとんどないではないか。

 見れば見るほど、いつ外れてもおかしくない状態だったのがわかる。


 バイク屋からの帰り道、歩きながらアクロスの止まった場所へ差し掛かった。

 その時、気付いたのだ。アクロスが止まった場所は、おいらが以前住んでた家の前。アクロスが生まれて10年過ごした家の前だったのだ。

 アクロスは、ちゃんと家までおいらを送ってくれたのだ。きっと薄れゆく意識の中で、長年住んでた前の家まで来て、帰ってきたと思ったのだろう。

 そう気付いた途端に、涙が溢れてた。アクロスは、動けなくなる最後の最後まで、おいらを送り届けようとしてくれたのだ。アクロス……、おまえってなんていいヤツなんや。

 早くよくなって、また一緒に走ろうな、アクロス。 


2000年までアクロスが住んでた家
下は今の状態。


今は立ち退きでサラ地と道路になっている。この交差点まで走ってきて、アクロスは止まった。


 1週間後、アクロスの見舞いに行ったら、車体からエンジンを含め、全ての部品が下ろされ、フレームだけになっていた。

 画像上のタコメーターが見える部分がハンドル。

 メットインもエンジンも全て取り払われ、フレームだけが立っていた。

 さすがに寂しいというか、悲しい気持ちになる。
 すまんなあ、アクロス。


 そして、2週間が過ぎ、4月23日。
 ついにアクロスが復活!

 生まれ変わったニューアクロスと共に、25日から早速、取材旅へ。

 最初は半分寝ていて動きが固かったアクロス。でも、ある瞬間、いつものエンジン音が鳴り響いた。

 これがアクロスの音や! やっと帰ってきてくれたんかぁとカウルをナデナデする。

 これからも一緒に走ろうな、アクロス。

★アクロスのプロフィールはこちら


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